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最高裁判所第三小法廷 平成7年(行ツ)176号 判決

東京都八王子市片倉町七二二番地の一

上告人

明邦株式会社

右代表者代表取締役

村井徳三

右訴訟代理人弁護士

小松哲

同弁理士

中村純之助

小林茂

新潟県中蒲原郡村松町大字石曽根一一八二番地

被上告人

株式会社安中製作所

右代表者代表取締役

安中四郎

右訴訟代理人弁理士

牛木護

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第三七号審決取消請求事件について、同裁判所が平成七年七月六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小松哲、同中村純之助、同小林茂の上告理由について

所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、本件発明が進歩性を欠くとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、独自の見解に立って原判決の法令違反をいうものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

(平成七年(行ツ)第一七六号 上告人 明邦株式会社)

上告代理人小松哲、同中村純之助、同小林茂の上告理由

第一点

一 原判決は、実公昭四六-二九四六九号公報(原審における甲第五号証、以下「甲第五号証」という。)に関し、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を認定しているが、この原判決の認定は明らかに誤りであり、この認定の誤りにつき著しい経験則違反があるから、民事訴訟法第一八五条に違背する。

二 原判決は、甲第五号証に関し、「連結金具1の彎曲部とテープ2との接着範囲を彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲に含まれるものとしているのは、連結金具1のテープ2からの離脱を防止し、併せて複数個の連結金具1を一定の形態に保持しておくようにするためであると認めるのが相当である。」(原判決第一七頁第三行~第八行)と判示している。つまリ、原判決は、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を認定している。

ここで、原判決は、甲第五号証には、「本考案の結束装置では、可撓性を有するテープ2で連結金具1の背外面のみを結束してあるので、結束されている連結金具は、テープ2部分を中心として開くことが可能であり、これによリ、案内杆4が彎曲していても、本考案により結束した連結金具1はその結束状態のまま彎曲部5を通過することができるものである。」(原判決第一六頁第一一行~第一六行)旨の記載があることを上記事実(A事実)を認定する理由としている。つまり、原判決は、案内杆4の彎曲部5で連結金具1をテープ2部分を中心として開くことが可能であるから、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあると判断している。

しかしながら、連結金具1とテープ2との接着範囲を彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲以外の範囲にしたとしても、連結金具1をテープ2部分を中心に開くことが可能であることは明らかである。つまり、連結金具1とテープ2との接着範囲にかかわらず、連結金具1をテープ2部分を中心に開くことが可能である。そして、連結金具1とテープ2との接着範囲を彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲にしたときにのみ連結金具1をテープ2の部分を中心に開くことが可能であるのであれば、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは、連結金具1を一定の形態に保持することにあるとする可能性があるが、連結金具1とテープ2との接着範囲にかかわらず、連結金具1をテープ2部分を中心に開くことが可能であるから、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つに、連結金具1を一定の形態に保持することにあるとは到底いえないのである。むしろ、甲第五号証には、「複数個の連結金具1を一列に配列し、これら連結金具1の轡曲部を形成する中高部にテープ2が接着され、このテープ2によつて一列に配設された連結金具1を一定の形態.に保持していることが記載されている」(原判決第一六頁第三行~第六行)と原判決は認定しており、このことを率直に解すれば、連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由の一つが、連結金具1を一定の形態に保持することにあることを意味していると考えるべきであり、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つが、連結金具1を一定の形態に保持することにあることを意味しているとは考えられない。

なお、連結金具1をテープ2により連結するという技術的事項と、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定するという技術的事項とは明確に区別されるべきある。また、甲第五号証には、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由についての直接の記載は一切存在しない。

このように、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金真1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)の認定は明らかに誤りである。

また、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つが、連結金具1を一定の形態に保持することにあるのではないことは甲第五号証の記載から容易に知ることができるから、この認定の誤りにつき著しい経験則違反がある。

三 しかも、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を誤って認定していることが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

すなわち、原判決では、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を直接の論拠として、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を導いており、上記事実(A事実)を認定しなければ、上記結論を導くことができない。このことは、上記事実(A事実)が本件審決にも記載されておらず、しかも原審において当事者が上記事実(A事実)を主張していないにもかかわらず、原判決で上記事実(A事実)を新たに認定していることからも明らかである。したがって、上記事実(A事実)の認定が誤りであれば、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論に誤りが生ずる。ゆえに、上記認定の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第二点

一 原判決は、甲第五号証に関し、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)を認定していると考えられるが、この原判決の認定は明らかに誤りであり、この認定の誤りにつき著しい経験則違反があるから、民事訴訟法第一八五条に違背する。

二 原判決は、「この構成が採択されている技術的理由は上記のとおりのものと認められるから、甲第四号証記載のU字形クリップ組立体において、運搬や締付装置への挿入の際に、U字形クリップが保持部材から離脱することを防止し、併せて組立体の形態を良好に保つようにして、クリップが横倒しになることのないようにするために、甲第五号証の上記構成を適用して、U字形クリップと保持部材との接着範囲を、U字形クリップの彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲に含まれるものに限定することに格別の創意を要したものとは認められない。」(原判決第一七頁第一二行~第一八頁第一行)と判示している。この原判決には明確には述べられていないが、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一てあるから、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないと原判決が認定しているものと解する。とするならば、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つはU字形クリップの横倒しを防止することにあるから、原判決は連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)を認定していることになる。

しかしながら、本件特許発明におけるU字形クリップの横倒しとは、原判決の別紙図面一第一〇図に示されるように、相隣接するU字形クリップの中心線が平行でなくなることを意味し、甲第五号証の発明における連結金具1の横倒しとは、相隣接する連結金具1の中心線が平行でなくなることを意味するが、甲第五号証においては、原判決の別紙図面三第七図に示されるように、連結杆四の彎曲部5において相隣接する連結金具1の中心線が平行でなくなっているのであるから、甲第五号証の発明において連結金具1の横倒しが生じていることになる。そして、甲第五号証の発明において連結金具1の横倒しが生じていないのであれば、甲第五号証の発明において連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるいえる可能性があるが、甲第五号証の発明においては連結金具1の横倒しが生じているのであるから、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つが連結金具1の横倒し防止であるとは到底いうことができない。

このように、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)の認定は明らかに誤りである。

また、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つが連結金具1の横倒しを防止することにあるのではないことは甲第五号証の記載から容易に知ることができるから、この認定の誤りにつき著しい経験則違反がある。

三 しかも、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)を誤って認定していることが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

すなわち、原判決では、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一であるかち、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないと認定しているものと解する。しかし、上述の如く、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)の認定が誤りであるから、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一であるとはいえない。したがって、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとはいえず、本件審決の判断に誤りはないとはいえない。ゆえに、上記認定の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

四 なお、上述においては、原判決は連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)を認定していると考えたが、仮に上記事実(B事実)を認定していないとすると、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一ではないことになるから、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの認定が誤りとなる。

第三点

一 原判決は、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言の意味と、本件特許の公告公報(原審における甲第三号証、以下「甲第三号証」という。)に関する「形態を良好に保つ」という文言の意味とが同一であると認定しているものと考えられるが、この原判決の認定は明らかに誤りであり、この認定の誤りにつき著しい経験則違反があるから、民事訴訟法第一八五条に違背する。

二 上述の如く、原判決は、甲第五号証に関し、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を認定している。また、原判決は、「本件発明において、U字形クリップと保持部材との接着を彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲に含まれるものとしているのは、運搬や締付装置への挿入の際に、U字形クリップが保持部材から離脱することを防止し、併せて組立体の形態を良好に保つようにして、クリップが横倒しになることを防止し、それによつて締付け作業の能率の向上を図るためであると認められる。」(原判決第一四頁第一九行~第一五頁第六行)と判示している。つまり、原判決は、甲第三甲号証に関し、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つはU字形クリップ組立体の形態を良好に保つことにあるという事実を認定している。そしで、上記A事実とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つはU字形クリップ組立体の形態を良好に保つことにあるという事実どから、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を導いているから、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とが同一であると認定しているものと考えられる。

たしかに、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とは極めて類似している。しかしながら、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とは全く異なることを意味しているのである。

すなわち、甲第五号証の発明において、連結金具1を一定の形態に保持することができるということは、連結金具1をテープ2で連結すれば、連結金具1が案内杆4の彎曲部5を通過するときにも、いわば連結金具1の横倒れが生じて、つまり連結金具1がテープ2部分を中心として開いて、連結金具1を結束状態のままに保持できることを意味している。このことは、甲第五号証に「本考案の結束装置では、可撓性を有するデープ2で連結金具1の背外面のみを結束してあるので、結束されている連結金具は、テープ2部分を中心として開くことが可能であり、これにより、案内秤4が彎曲していても、本考案により結束した連結金具1はその結束状態のまま彎曲部5を通過することができるものである。」(原判決第一六頁第一一行2~一六行)と記載されていることから明らかである。

また、甲第三号証の発明において、U字形クリップ組立体の形態を良好に保つことができるということは、U字形クリップの横倒しを防止することができることを意味している。このことは上記判示事項(原判決第一四頁第一九行~第一五頁第六行)から明らかである。つまり、甲第三号証の発明においては、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することにより、U字形クリップ組立体の「形憩を良好に保つ」ことができ、U字形クリップが「横倒しになる」のを防止することができるのである。

このように、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言は連結金具1の横倒れを生じさせて連結金具1を結束状態のままに保持することを意味しており、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言はU字形クリップの横倒しを防止することを意味しているから、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言の意味と、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言の意味とは全く相違するのである。

また、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言の意味と、甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言の意味とが相違することは甲第五号証、甲第三号証の記載から容易に知ることができるから、この認定の誤りにつき著しい経験則違反がある。

三 しかも、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とが同一のことを意味していると誤つて認定していることが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

すなわち、原判決では、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とが同一のことを意味していることをU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないという結論の直接の論拠としている。しかし、上述の如く、甲第五号証に関する「一定の形態に保持する」という文言と甲第三号証に関する「形態を良好に保つ」という文言とが同一のことを意味しているとはいえない。したがって、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとはいえず、本件審決の判断に誤りはないとはいえない。ゆえに、上記認定の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第四点

一 原判決は、当事者が主張していない主要事実を判決の基礎としているから、弁論主義に違背する。

二 原判決においては、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を直接論拠付ける事実としており、もし上記事実(A事実)を当事者が主張しないときにも、上記事実(A事実)を判決の基礎としたときには、原審原告(上告人)にとって不意打ちとなり、手続保障が阻害される結果となることは明らかである。したがって、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)は主要事実であるとするのが相当である。

しかるに、原判決から明らかなように、原審ではもちろんのこと、本件無効審判においても上記事実(A事実)の主張は全くなされていないにもかかわらず、原判決は上記事実(A事実)を認定し、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を上記事実(A事実)により直接論拠付けている。したがって、原判決は、当事者が主張していない主要事実である上記事実(A事実)を判決の基礎としているから、弁論主義に違背する。

また、原審原告(上告人)が「甲第五号証には、連結金具1の外周面とテープ2との接着範囲を彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲に含まれるものとすることの目的が全く記載されておらず、同号証の発明においでは、上記角度にすることについて何らの目的も意図していなかったものであることは明らかである。」(原判決第九頁第二〇行~第一〇頁第五行)と主張しているのに対し、原審被告が何らの反論もなしていないことは原判決から明らかである。したがって、原審被告は、甲第五号証の発明では連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由(目的)が何ら意図されていなきつたという事実を自白したことになり(民事訴訟法第一四〇条第一項本文)、甲第五号証の発明では連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することのことの技術的理由が何ら意図されていなかったという事実を判決の基礎としなければならない(民事訴訟法第二五七条)。しかるに、原判決では、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することのことの技術的理由が何ら意図されていなかったという事実に反する事実である上記事実(A事実)を認定し、上記事実(A事実)を直接の論拠として結論を導いているから、原判決は民事訴訟法第二五七条に違背する。

なお、本件審決には、「複数個の連結金具1を一列に配列し、これら連結金具1の彎曲部を形成する中高部に保持部材としての可撓性を有するテープ2が接着され、このテープ2によって一列に配設された連結金具1を一定の形態に保持していることが記載され」(原判決第四頁一六行~第二〇行)ている。つまり、本件審決には、連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(C事実)が記載されており、原審原告(上告人)もこれを認めている(原判決第七頁第一七行)。しかし、連結金具1をテープ2により連結するという技術的事項と、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定するという技術的事項とは明確に区別されるべきあり、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)は全く主張されていないのである。

また、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1の横倒しを防止することにあるという事実(B事実)についても、原審において当事者が全く主張していないことは明らかである。

三 しかも、弁論主義に違背して、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持ことにあるという事実(A事実)を認定していることが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

すなわち、原判決では、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一であることを直接の論拠として、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を導いているから、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持ことにあるという事実(A事実)を判決の基礎とすることができなければ、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を導くことができず、本件審決の判断に誤りはないとはいえない。ゆえに、弁論主義に違背することが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第五点

一 原判決は、本件審決に記載された理由とは異なる理由で本件審決の結論を支持しているから、審決には理由を付すべきものとした特許法第一五七条第二項第四号の規定の主旨に著しく反し、違怯である。

二 特許法一五七条第二項第四号が審決をする場合には審決書に理由を付すべきことを定めている趣旨は、審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えることおよび審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにある(最高裁判所昭和五四年(行ツ)第一三四号事件、昭和五九年三月一三日言渡判決)。しかるに、審決取消訴訟において審決に記載された理由とは異なる理由で審決の結論を支持したときには、審決だけを考慮して当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを判断することができず、また審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることができないことになり、特許法第一五七条第二項第四号の規定の主旨に著しく反し、違法である。

現に、下級審判例(東京高等裁判所昭和四九年(行ケ)第四一号事件、昭和五一年二月五日言渡判決)においても、「本件審決は本願発明が引用例そのものから容易に推考することができると認定しているのであって、被告の主張するような周知技術を前提として引用例から容易に推考できるとしているのではない。してみると、被告の主張は審決の理由とは異なる別箇の理由によって審決の結論を支持しようとするものであって、かような主張.立証をすることは許されないものと解するのが相当である」と判示している。また、御庁判例(最高裁判所昭和四〇年(行ツ)第五号事件、昭和四七年三月三一日言渡判決)においても、「再調査決定の附記理由が仮に不備でなかったとしても、これにより遡って更正処分の附記理由の不備が治癒されたと解することはできない。」と判示している。この判例は審決取消訴訟に関するものではないが、理由を付すべき行政処分(更正処分)がなされたときには、後の手続(再調査決定)で新たな理由を示して原処分の結論を支持することはできないことを示している。とするならば、理由を付すべき原処分である審決がなされたときには、後の手続である審決取消訴訟で新たな理由を示して審決の結論を支持することはできないことになる。

もっとも、審決取消訴訟においては如何なる理由をも付け加えてはならないとしたときには、裁判官の自由心証を害する結果となるから、理由の変更が許される場合もありうると考える。しかしながら、判決の結論を導く直接の理由を変更することができるとしたときには、上述の如く特許法第一五七条第二項第四号の規定の主旨に著しく反し、しかも信義の原則にも違反する結果となるから、審決取消訴訟では判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更することできないと解する。

しかるに、本件審決においては、「本件発明において複数のU字形クリップを保持部材により接着すること、また、甲第五号証に記載された発明において複数の連結金具1をテープ2により接着することは、いずれも作業能率の向上を図るという同一の目的を持つものであるから、甲第四号証記載のU字形クリップと保持部材との接着範囲の前記角度を、甲第五号証に記載された連結金具1の彎曲部とテープ2との接着範囲である彎曲部の最も高い位置を中心として二五。から一〇〇。の範囲に含まれるものに限定することに格別な創意を要したとは認められ」ない(原判決第六頁第一六行~第七頁第五行)と認定されている。つまり、本件審決においては、連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由は作業能率の向上を図ることにあるという事実(D事実)を前提とし、連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由とU字形クリップを保持部材により連結することの技術的理由とが同一であることを理由として、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないと結論付けている。

これに対して、原判決においては、上述の如く、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持ことにあるという事実(A事実)を前提とし、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一であることを理由として、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないと結論付けている。

このように、連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由は作業能率の向上を図ることにあるという事実(D事実)から、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持ことにあるという事実(A事実)に、結論を導く直接の事実を変更するとともに、「連結金具1をテープ2により連結することの技術的理由とU字形クリップを保持部材により連結することの技術的理由とが同一であること」から、「連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由とが同一であること」に、結論を導く直接の理由を変更しているから、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更していることは明らかである。

以上のように、原判決は、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更しているから、審決には理由を付すべきものとした特許法第一五七条第二項第四号の規定の主旨に著しく反し、違法である。

三 しかも、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更することの違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

すなわち、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更することができないとすれば、U字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとはいえない。このことは、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更したこと自体から明らかである。つまり、本件審決での理由では審決の結論を支持することができないとの判断から、原判決においては理由を変更しているのである。したがって、審決の判断に誤りはないとはいえない。ゆえに、判決の結論を導く直接の理由を審決では示されていない理由に変更することの違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第六点

一 原判決では、本件審決で認定されておらず、かつ原審で当事者が主張していない事実を認定し、その事実を直接の論拠として結論を導いており、しかも原判決で認定された上記事実の認定は誤りであり、このような場合にも適正は判断を受けることができないとすれば、手続保障が著しく阻害される結果となるから、原判決は憲法第三二条に違背する。

二 上述の如く、原判決は、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を認定しているが、上記事実(A事実)は本件審決では認定されておらず、かつ原審においても当事者は主張していない。

そして、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)が、本件審決において認定され、あるいは原審において当事者が主張していれば、上告人(原審原告)は原審において上述のような反論を行なうことができたのであるが、上記事実(A事実)は本件審決では認定されておらず、かつ原審においても当事者は主張していないのであるから、上告人には上記事実(A事実)の存否について反論する機会は全く与えられていないのである。

さらに、上述の如く、連結金具1とテープ2との接着範囲を所定角度に限定することの技術的理由の一つは連結金具1を一定の形態に保持することにあるという事実(A事実)を直接の論拠としてU字形クリップと保持部材との接着範囲を所定角度に限定することに格別の創意を要しないとの結論を導いており、しかも上記事実(A事実)は誤って認定されており、このような場合にも適正は判断を受けることができないとすれば、手続保障が著しく阻害される結果となる。

したがって、原判決は憲法第三二条に違背する。

以上、いずれの点よりするも原判決は違法、違憲であり、破棄されるべきである。

以上

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